毎年11月になると、私はちょっとソワソワします。EF(イー・エフ)という教育機関が発表する「世界の英語力ランキング」が出るからです。学生時代のテスト返却を待つ、あの感覚に近いかもしれません。そして結果を見て、毎年だいたい同じため息をつくことになります。「……今年も、そうですか」と。
セブ島に留学して英語と格闘した経験のある私でも、この順位を見るたびに考え込んでしまいます。日本は、なぜこんなに低いのか。そして——これが今日いちばんお伝えしたいことですが——この「順位」は、私たちが思っているほど単純な話ではない、という点です。
まず結論:2025年版で、日本は世界96位
順位の出どころから整理します。これはEF EPI(EF英語能力指数)という調査で、世界123カ国・地域の成人の英語力を比べたものです。2025年版が第15回で、約220万人分のテスト結果がもとになっています。
その2025年版で、日本は世界96位(スコア446)でした。世界平均は488ですから、平均にもアジア平均にも届いていません。スコアの帯で言うと、上から5段階のうち下のほうの「低い英語能力」グループに入っています。
Source: EF「英語能力指数(EF EPI)」2025年版(EF公式)
数字だけ見ると、なかなか厳しい結果です。「中学・高校とあれだけやったのに、96位……?」と、思わず天を仰ぎたくなる気持ち、よくわかります。
ランキングの「上」と、アジアの中の日本
では上位には誰がいるのか。2025年版のトップはオランダ(スコア624)。2位以下もクロアチア、オーストリア、ドイツ、ノルウェー……と、上のほうはヨーロッパ勢がずらりと並びます。
私たちにとって気になるのは、やはりアジアでしょう。アジアで上位につけているのは、マレーシア(24位)、そしてフィリピン(28位)です。香港が39位、韓国が48位、中国が86位と続き、日本は96位。アジアの中で見ても、かなり後ろのほうにいます。
(ちなみに、英語が強いことで有名なシンガポールは、2025年版では「英語ネイティブの国」と分類され、ランキングの対象から外れました。アジアの上位常連がひとつ消えた、という事情もあります。)
ここで、このメディアらしい一点に触れさせてください。フィリピンは28位、日本は96位。その差、およそ70。同じアジアで、同じように「英語は母語ではない」国どうしなのに、これだけ開いています。なぜフィリピンがこれほど英語に強いのかは別の記事でじっくり書きましたが、ひとことで言えば「才能ではなく、英語を使わざるを得ない環境があるから」です。ランキングは、その環境の差をそのまま映している、とも言えます。
Source: EF「英語能力指数(EF EPI)」2025年版(EF公式)
……と、普通の記事ならここで「日本もがんばろう!」と締めるところでしょう。でも私は、もう少しだけ意地悪に、このランキングの「裏側」を見ておきたいのです。むしろ、ここからが本題かもしれません。
別の角度①:「96位」を、そのまま信じすぎない
まず、順位そのものの読み方です。
EF EPIの第1回は2011年で、当時の対象はわずか40カ国ほどでした。それが今では123カ国・地域です。順位が下がったのは、日本の後ろに国が増えたからというより、参加する国全体がどんどん増えたから、という面が大きい。母数が膨らめば、自分の実力が同じでも「◯位」という相対順位は自然と下がっていきます。
実際、EF側も「日本の英語力が下がったというより、他国の伸びが速い」という趣旨の説明をしてきました。つまり「96位」という数字は、たしかにショッキングではありますが、それ自体を真に受けて落ち込みすぎる必要はない、ということです。
別の角度②:このランキング、実は「平均的な日本人」を測っていない
そして、ここがいちばん大事なところです。
EF EPIのスコアは、EFが無料でネット公開している英語テストを、自分から受けにいった人たちの結果を集めたものです。つまり、無作為に選ばれた「平均的な日本人」ではありません。EF自身が、サンプルには偏りがあるとはっきり認めています。
どんな偏りかというと、受験者の年齢は中央値で26歳、85%が35歳未満。英語に関心のある人、留学や仕事で英語を使いたい人が中心です。そもそもネット環境がないと受けられないので、ネットを使わない層は最初から外れます。EFは「この偏りのせいで、スコアはむしろ高めに出やすい」とまで書いています。
Source: EF EPI「調査方法について(About EF EPI)」(EF公式)
これ、よく考えると、けっこう大事な意味を持ちます。日本のスコア446は、「英語にまったく興味のないおじさん」まで含めた日本人全体の平均ではなく、むしろ「英語に関心があって、わざわざ自分でテストを受けにいった、比較的やる気のある若い層」の数字なのです。
つまり——いちばんやる気のある人たちを集めても、日本はこのスコアだった、ということになります。これは「日本人は英語に興味がないから低い」という説明が、あまり当てはまらないことを意味するのではないでしょうか。興味がある人ですら、伸び切れていない。だとすると、問題はもっと別のところにある、と考えたほうが自然だと思うのです。
「話す・書くが弱い」のは、今に始まった話ではありません
ここで、もうひとつ正直に言っておきたいことがあります。
2025年版から、EFは話す・書く力をAIで初めて評価するようになりました。そして日本については「読む・聞くに比べて、話す・書くのスコアが相対的に伸びにくい」と指摘されています。発表のキャッチコピーも「理解はできるが、使いこなせない」でした。
……ただ、これ自体は、まったく新しい話ではありませんよね。「日本人は読み書きはできても話せない」なんて、それこそ何十年も前から言われ続けてきたことです。新しくなったのは“指摘の中身”ではなく、AIで測れるようになったという“計測方法”のほう。私たちは自分たちのこの弱点を、とっくの昔から知っているわけです。
むしろ私が引っかかるのは、そこなのです。これだけ昔から言われ、英語教育の改革も何度も重ねてきて、それでもこの傾向がほとんど変わっていない。最新のAIに測らせても、結局また同じ弱点が出てくる。——ここまで頑固に動かないということは、もう「正しいやり方を知らないから」ではないのだと思います。知識ややり方の問題なら、とっくに解決していたはずですから。
Source: EF「英語能力指数(EF EPI)」2025年版(EF公式)
英文は読める、リスニングもまあまあ、でも、いざ口を開くと固まる。私もセブ島に行く前は、まさにこれでした。読めるのに、”This is a pen.” の先がなかなか出てこない。足りていなかったのは知識ではなく、ただ「口を動かした量」だったのです。そして量の問題なら、直し方もはっきりしています。
順位を変えるより、「自分の環境」を変える
話す・書く——つまりアウトプットは、残念ながら、教科書を読んだりリスニングを流したりするだけでは伸びません。実際に口を動かし、間違えながら使う「量」を積むしかない。これは才能でも年齢でもなく、ただ「使った量」の問題だと思われます。
そして、その量をいちばん手っ取り早く、しかも逃げ場なく積めるのが、やはり英語環境に身を置くことです。朝から晩まで英語に囲まれ、マンツーマンで何時間も話し続ける。ランキング上位のヨーロッパの国々や、アジアのフィリピンが自然に持っている「英語を使わざるを得ない環境」を、数か月だけ、自分の手でつくりにいく。
おもしろいのは、そのアジア上位の常連・フィリピンが、そのまま留学先になっている、ということです。「なぜ28位なのか」の答え(英語を使い倒す環境)が、そっくりそのまま「だからフィリピン留学には意味がある」という理由になっている。ランキングと留学先が、きれいに一本の線でつながっているわけです。
世界96位、と聞くと、やっぱり落ち込みます。でも、あのランキングはあくまで国全体のスナップショットであって、あなた個人の通信簿ではありません。あなたの「個人ランキング」は、環境を変えた瞬間から、いくらでも書き換えられます。順位表の中で日本がどう動くかを眺めているより、自分が今いる場所を変えるほうが、よっぽど早い。私はそう思っています。
日本がなぜ低くて、フィリピンがなぜ高いのか。その「環境の差」の中身をもっと知りたくなった方は、フィリピン留学ガイドもあわせてのぞいてみてください。あなたの96位を、一気に書き換えにいく場所が、そこにあるかもしれません。
